都立2病院で多言語ツール「QRトーク」を試行|外国人患者受入れで医療機関が確認すべき要点

multilingual-tool-foreign-patient-tokyo-hospitals

この記事の要点

  • 誰が:ワンミニッツ株式会社と東京都立病院機構
  • いつ:2026年9月14日に試行開始、同年10月28日に発表
  • どこで:東京都立大塚病院・東京都立東部地域病院
  • 何を:患者自身のスマートフォンで使える多言語コミュニケーションツール「QRトーク」を試行
  • 結論:多言語ツールは受付や院内案内の負担軽減に役立つ一方、医療安全、個人情報管理、医療通訳との使い分け、院内業務の設計をセットで考える必要があります。

外国人患者の受入れでは、受付での案内から問診、検査前の説明、会計まで、さまざまな場面で言葉の壁が生じます。本記事では、公開情報とAJSの支援現場で得た知見をもとに、多言語ツールの特徴と、医療機関が導入前に確認したい実務上の要点を整理します。

目次

都立2病院で、患者のスマートフォンを使う多言語ツールの試行が始まりました

都立2病院で、患者のスマートフォンを使う多言語ツールの試行が始まりました

試行は2026年9月14日に始まりました。東京都の「スタートアップによる事業提案制度」による取組で、東京都立病院機構が運営する2病院が対象です。

発表によると、このツールには次のような特徴があります。

  • 患者が自分のスマートフォンでQRコードを読み取るだけで使え、アプリや専用端末は不要
  • 翻訳機の台数に左右されず、同時に利用できる人数に上限がない
  • 誤訳しやすい言葉を、病院専用の用語として登録できる
  • 会話の記録がテキストで病院専用の管理ページに残り、利用状況を確認できる

今回の取組は試行段階で、導入による具体的な成果はまだ公表されていません。同社は今後、医療現場での利用を通じて専門用語の翻訳精度を高めていく方針を示しています。

AJSの実務視点
現場で見落とされやすいのは、ツールを導入した後の「誰が、どの場面で、どこまで使うか」です。受付案内、診察、同意取得、会計では必要な正確性が異なります。導入前に利用場面と責任者を決めておくと、スタッフが迷いにくくなります。

外国人患者の増加と、受入れ体制づくりの現状

外国人患者の増加と、受入れ体制づくりの現状

発表資料では、背景として次のデータが紹介されています。

  • 在留外国人数は2025年12月末時点で412万5,395人となり、初めて400万人を超えた(東京都は80万1,438人)
  • 厚生労働省の全国調査(令和6年度)では、回答した病院の約5割が2024年9月に外国人患者を受け入れており、42.0%が何らかの通訳・翻訳手段を利用できると回答
  • 一方で、自院の受入れ体制整備の方針を定めていない病院は約9割

外国人患者の受診は、一部の医療機関に限らず、多くの病院にとって身近なものになりつつあります。その一方で、体制づくりの方針はまだこれからという医療機関が多いのが現状です。

患者自身のスマートフォンを使える仕組みが広がれば、受付や院内案内などの日常的な場面で、スタッフの負担を抑えながら対応できる可能性があります。今から方針を整えておくことは、医療機関にとって大きな強みになるでしょう。

翻訳ツールの活用で確認したい、医療安全と情報管理

翻訳ツールの活用で確認したい、医療安全と情報管理

今回の発表では、情報の取扱いについても具体的に説明されています。

  • 会話記録は国内のサーバーに暗号化して保管し、音声認識や翻訳の処理も国内で完結
  • 端末とサーバー間の通信を暗号化し、データベースは外部から直接アクセスできない構成
  • 入力された音声やテキストを、AIモデルの学習に利用しない
  • 保存は契約期間中に限り、契約終了時は医療機関の指示に基づき返還または消去

医療機関が翻訳ツールを選ぶ際は、使いやすさや対応言語数に加えて、患者情報の取扱いを確認することが欠かせません。患者の氏名や病歴を入力する場合は、情報の保存先、閲覧権限、保存期間、委託先の管理などを確認し、院内規程と整合しているかを確かめておきましょう。

また、場面に応じた使い分けも重要です。例えば内視鏡検査では、受付や検査室への案内には翻訳ツールを活用できます。一方で、鎮静剤の使用、検査に伴うリスクや偶発症、同意の取得については、患者が説明を正しく理解できたかを確認する仕組みが必要です。

機械翻訳の結果をそのまま医学的な説明や同意取得の根拠とするのではなく、必要に応じて専門の医療通訳を利用し、医師・医療機関が説明と理解の確認を行う体制を整えることが大切です。

ツールと業務設計を組み合わせて、無理のない受入れを

ツールと業務設計を組み合わせて、無理のない受入れを

外国人患者の受入れを始める際、必ずしも最初から大規模な設備投資が必要なわけではありません。

まずは、自院で外国人患者に提供できる検査・治療を整理し、問い合わせから予約、受診、会計、結果説明までの流れを確認することから始められます。そのうえで、場面ごとに翻訳ツール、医療通訳、多言語の説明文書などを割り当てていくと、無理のない体制をつくりやすくなります。

現在、自由診療のメニューがない医療機関でも、既存の検査や治療を外国人患者向けに提供できる可能性があります。ただし、医学的な適応、診療報酬・保険制度を含む関係法令、費用負担、院内体制などを確認することが前提です。

AJSでは、診療メニューの検討から、翻訳ツールと医療通訳の使い分けを含む多言語対応、予約・決済、院内業務フローの構築まで、医療機関の状況に応じたご相談を承っています。新しいツールと業務の設計を組み合わせ、医師やスタッフが安心して診療に取り組める受入れ体制を、一緒に整えていきませんか。

受診前の導線や価格設計まで含めた体制づくりについては、関連記事「外国人向けオンライン診療とは?受診導線・費用・医療機関の受入れ体制をAJS代表が解説」もあわせてご覧ください。

多言語ツールと外国人患者受入れに関するよくある質問

Q. QRトークは患者のスマートフォンでアプリなしで使えますか?

発表によると、患者が院内のQRコードを読み取ることで利用でき、専用アプリや専用端末は不要です。ただし、院内の通信環境や患者の端末設定によって利用状況が異なる可能性があるため、代替手段も用意しておくと安心です。

Q. 多言語ツールだけで診療説明や同意取得まで対応できますか?

機械翻訳だけに頼ることはおすすめできません。検査や治療のリスク、鎮静、偶発症、同意取得など、患者の理解確認が重要な場面では、医師による説明に加え、必要に応じて専門の医療通訳を利用する体制が必要です。

Q. 医療機関が導入前に確認すべき情報管理項目は何ですか?

データの保存先、通信と保存時の暗号化、閲覧権限、保存期間、契約終了時の削除方法、AI学習への利用有無、委託先の管理を確認します。自院の個人情報保護規程や情報セキュリティ方針との整合も必要です。

Q. 外国人患者受入れは何から始めればよいですか?

まず、自院で提供できる診療・検査、対応可能な言語、予約方法、支払い方法、結果説明までの流れを可視化します。その後、各場面を翻訳ツール、医療通訳、多言語文書のどれで支えるかを決めると、無理のない受入れ体制を設計できます。

執筆・監修:株式会社AJS 代表 藤井純子
医療従事者としての病院勤務経験と、外国人患者様・医療機関の支援現場で得た知見をもとに、医療インバウンドの受入れ体制づくりを支援しています。会社・代表者情報を見る

※本記事は、2026年10月28日の発表資料などの公開情報をもとにした一般的な解説であり、特定の製品の導入をおすすめするものではありません。翻訳ツールの導入や個人情報の取扱いについては、各製品の提供条件や院内規程、関係法令をご確認ください。

出典

外国人患者の受け入れを、無理なく始めたい医療機関様へ
AJSでは、通常診療への負担を抑えながら、外国人患者の受け入れ体制づくりを、設計から導入・定着まで伴走支援しています。専用ページでは、具体的な支援内容や導入の流れをご紹介しています。お問い合わせいただいた医療機関様には、受け入れ準備に役立つ「17項目チェックリスト」を含む資料もご用意しています。

目次