公的医療保険に加入していない訪日外国人患者の診療は、自由診療として医療機関が価格を設定します。しかし、通訳や翻訳、渡航前の情報確認、保険会社との調整など、通常診療とは異なる業務が発生する一方で、どこまでを診療価格に反映してよいのか判断に迷う医療機関も少なくありません。
こうした状況を踏まえ、2026年4月1日から、社会医療法人等が訪日外国人患者に設定できる診療価格の上限に新たな考え方が導入されました。一定の条件のもとで、診療報酬点数1点あたり最大30円まで設定できる可能性があります。
ただし、すべての医療機関が一律に1点30円を設定できる制度ではありません。本記事では、対象となる法人、価格の上限を決める条件、行政への確認、受け入れ体制と未収金対策まで、実務で押さえたいポイントを整理します。
2026年4月から、社会医療法人等の訪日外国人診療価格に新たなルール

厚生労働省の通知により、社会医療法人等が公的医療保険に加入していない訪日外国人患者へ行う診療について、価格設定の上限が見直されました。対象となるのは、次の法人・団体です。
- 社会医療法人
- 特定医療法人
- 認定医療法人
- 福祉病院事業法人
- オープン病院事業法人
- 厚生農業協同組合連合会
新しいルールでは、健康保険法に基づく療養に相当する診療について、診療報酬の算定方法による額を基準に、その3倍以下の範囲で価格を設定できます。ただし、「地域における標準的な料金」を超えることはできず、算出した上限が1点30円を超える場合も、30円が上限です。
つまり、1点30円はあくまで制度上の最大値です。地域の標準的な料金が1点30円を下回る場合は、その金額が上限となります。また、診療報酬点数表にないサービスについては、このルールとは分けて価格を検討する必要があります。
地域の標準的な料金は、同じ区分の医療機関を参照し、原則として同一都道府県や二次医療圏などから比較対象を選びます。対象が3医療機関以上になるまで範囲を広げ、該当する医療機関の料金をもとに平均値または中央値で算出します。
適用にあたって必要となる確認・認定の手続きは法人種別によって異なります。社会医療法人と認定医療法人は、実際にその価格で診療する前に所管行政庁の確認が必要です。その他の対象法人も、所管する都道府県や地方厚生局などへ必要な手続きを確認しておくことが重要です。
価格を決める前に整理したい「受け入れ特有のコスト」

訪日外国人患者の受け入れでは、診察や検査だけでなく、その前後にさまざまな調整業務が発生します。価格を検討するときは、まず受け入れに必要な業務とコストを可視化することが大切です。
- 問い合わせ対応:受診希望の確認、対応可能な診療科の案内、来日日程の調整
- 医療情報の事前確認:紹介状、検査画像、服薬情報、既往歴などの収集と翻訳
- 受け入れ可否の判断:医師や診療科への照会、緊急性や治療期間の確認
- 多言語での説明:診療計画、概算費用、同意書、注意事項などの作成と説明
- 通訳・翻訳:受診当日の医療通訳、診療記録や結果報告書の翻訳
- 予約・支払い対応:予約枠の確保、デポジット、海外保険会社や医療コーディネーターとの調整
これらの業務について、「医療機関が院内で対応する範囲」と「外部の医療コーディネーターや通訳事業者へ委託する範囲」を明確にすると、必要な人員や費用を把握しやすくなります。
通訳料や翻訳料などを診療価格と別に請求する場合は、通知上の取り扱いが一律に示されているわけではありません。料金体系を決める前に、所管行政庁へ確認することをおすすめします。また、患者へ提示する際は、診療費、通訳・翻訳、調整費用などの内訳を分かりやすく示し、何に対する費用なのか説明できる状態にしておくことが重要です。
価格とあわせて整えたい、受け入れまでの実務フロー

適正な価格を設定しても、問い合わせから受診当日までの流れが曖昧なままでは、現場の負担や患者との行き違いが生じやすくなります。価格の検討と並行して、次の項目を院内で整理しておくと安心です。
- 受け入れ基準:対応可能な診療科、疾患、言語、緊急度、必要な滞在期間を明確にする
- 受診前の条件:事前提出書類、概算見積もり、デポジット、キャンセルポリシーを定める
- 役割分担:問い合わせ窓口、医師への確認、通訳手配、会計、診療後の連絡担当を決める
- 説明方法:価格表や見積書を多言語で用意し、診療内容の変更によって追加費用が生じる可能性も事前に伝える
- 支払い管理:利用可能な決済方法、海外保険の扱い、未収金が発生した場合の対応を決める
未収金対策も見直しておきたいポイントです。2026年4月1日以降に発生した医療費については、訪日外国人受診者の未収金報告制度の登録基準が変更されました。累計残高が1万円以上で、回収の見込みがない場合は登録対象となります。登録の要件や手順を確認しつつ、まずは受診前の見積もり、デポジット、支払い条件の説明によって未収を防ぐ仕組みを整えることが大切です。
AJSでは、医療機関ごとの体制や方針に合わせて、受け入れ基準、院内フロー、料金説明、通訳・調整業務の役割分担などを整理し、現場で無理なく運用できる体制づくりを支援しています。
外国人患者の受け入れを、無理なく始めたい医療機関様へ
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適正な価格と分かりやすい説明が、持続的な受け入れを支える

訪日外国人患者の診療価格は、単に「外国人だから高くする」という考え方で決めるものではありません。公的医療保険が適用されないことに加え、受け入れに必要な通訳、翻訳、事前調整、支払い管理などの業務とコストを踏まえ、持続的に提供できる価格を検討することが大切です。
そして、適正な価格と同じくらい重要なのが、患者への分かりやすい説明です。受診前に概算費用と内訳を提示し、追加費用が生じる条件や支払い方法を伝えておけば、患者の安心につながり、現場でのトラブルも防ぎやすくなります。
今回の制度見直しを、価格だけの変更で終わらせず、受け入れに必要な業務、院内の役割、説明資料、未収金対策まで見直す機会にすることが、無理のない訪日外国人患者の受け入れにつながります。
※本記事は、2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な解説です。実際の価格設定や行政手続き、料金の取り扱いは、法人種別や個別の状況によって異なります。制度の適用にあたっては、所管行政庁や専門家へご確認ください。
参考資料
- 厚生労働省「社会医療法人等における訪日外国人患者に対する診療価格の上限について」
- 厚生労働省「社会医療法人等における訪日外国人患者に対する診療価格の上限について」(令和8年3月31日付通知)
- 厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル等」
- 厚生労働省「訪日外国人受診者医療費未払情報報告システム」
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